2012年11月17日(土)、企画ツアー「日本絹の道・近代化遺産めぐり 大屋から諏訪岡谷へ」(主催:蚕都上田プロジェクト、斎藤ホテル・バーデンツアーズ)を実施しました。
20名ほどが参加しました。よりによって悪天候となり、午後の諏訪岡谷では大雨に見舞われました。それでも(あるいはそのために)印象深いツアーとなりました。
では、なぜ日本絹の道なのでしょうか。なぜ大屋なのでしょうか。なぜ諏訪岡谷なのでしょうか。
▼蚕都上田の大屋を起点にツアーを開始
▼旧中山道の和田峠はシルク交易の大動脈
▼世界一の製糸のまちだった岡谷
なぜ日本絹の道か
「絹の道」と言えば、古代の中国と欧州を結んだ古代シルクロードが有名です。絹の道とは単にシルクが行き交ったというだけではなく、文化の交易路でもあったところにその大きな意味合いがあります。近現代(19~20世紀)における世界最大の絹の道は、日本と欧米とを結ぶ近現代シルクロードです。とりわけ国内に着目すると、それは生糸の生産地と貿易港・横浜を結ぶルートとなります。その交易路を私たちは「日本絹の道」と呼ぶことにしました。
19世紀半ば、欧州で微粒子病が流行り、シルクの原料でもある蚕が壊滅して、欧州中が日本にシルクを求めました。やがて米国でシルクストッキングなどのファッションが流行ると、米国も品質の高いシルクを日本に求めるようになり、日本は欧米のシルク文化に大きく貢献しました。
富国強兵を進めた日本はシルク貿易で莫大な外貨を獲得し、奇跡の近代化を成し遂げました。そうしたシルク物語とともに、和田峠を越えて運ばれたシルクが米国の女性たちのシルクストッキングになった物語も紡いでみるだけでも、「日本絹の道」には語り尽くせないほどの「シルク物語」が生産できます。
なぜ大屋か
横浜が開港した1859年以来、信州からは大量のシルクが横浜を通じて欧米へ輸出されました。特に明治になると丸子、諏訪岡谷の製糸業が隆盛しました。諏訪岡谷のシルクは、和田峠を越えて中山道~北国街道~利根川舟運ルートを通って運ばれたことが知られています。
特に信越本線が全線開通すると中央本線が開通するまでの約10年間は信越線経由の絹の道がメインルートとなりました。信越本線の大屋駅は地元・丸子のシルクを輸送するために請願してできた駅です。
開業と共に諏訪岡谷のシルクも大屋を経由することとなりました。つまり、大屋は日本最大のシルク生産地であった丸子・諏訪岡谷を結ぶ日本絹の道の要衝だったのです。
なぜ諏訪岡谷か
明治になって器械製糸が盛んになると現在の岡谷の諏訪湖畔に数多くの製糸工場が建ち並ぶようになり、世界最大のシルクのまちとなりました。諏訪岡谷には製糸業の隆盛を背景に形成された「近代化産業遺産」の数々が現在も数多く残っています。つまり諏訪岡谷を訪ねると、シルクで栄えた日本の近現代がよく見えてきます。
ツアーの概要は別サイトで
「日本絹の道ツアー」の行程を紹介するととても長くなりますので、ここでは省略いたします。蚕都上田プロジェクトのブログサイト「>蚕都上田館だより」で行程を紹介しています。詳しくは以下のリンク先をご覧ください。
丸子にはかつて千曲川に架かっていた鉄橋が「りんどう橋」として今も保存されています。19世紀、ドイツから運ばれてきた橋が今も活用されています。シルクや繭を積んだたくさんの荷馬車が行き交っていた情景を想像してみましょう!
さすがに峠越えは昔も今も厳しい。激しい横なぐりの風雨に見舞われました。まだ馬力だった明治時代、和田峠にはトンネルもなく、シルクを運ぶ人たちは開削されたトンネル横に残る近代の道を通行していました。
製糸業で財をなした二代目・片倉兼太郎氏は諏訪に従業員や地元住民が憩える温泉リゾート施設「片倉館」(重文指定、1928年竣工)を作って富を地域に還元しました。しかも現役の温泉施設です。諏訪岡谷の文化のグレードの高さがわかります。
ツアーでは岡谷市近代化産業遺産を伝える会の皆様に岡谷市の近代化産業遺産をご案内いただきました。岡谷の近代化産業遺産の数々はたっぷり時間をかけて探訪したいものです。最も代表的な遺産が旧林家住宅(重文指定、1908年頃完成)です。住宅の隅々にまで贅がこらされ、じっくりと細部を見続けても見飽きることがありません。皆様もぜひお着物で旧林家住宅を訪れてみませんか?
養蚕供養塔があるのもさすが糸都岡谷ならではです。岡谷市は製糸業に関わる15の近代化産業遺産を観光資源としても紹介しています。
岡谷を観光するおすすめの季節は公園のツツジが満開になる5月頃。鶴峯公園には片倉製糸の創始者・初代片倉兼太郎氏の像が、成田公園には第十九銀行の創設者・黒澤鷹次郎氏の像があります。満開のツツジとともに製糸のまち岡谷の歴史も感じてみたいものです。
岡谷でもう一つのおすすめは名物の「うなぎ」。鰻重、鰻丼が美味しいことでも岡谷は有名です。絹の道、製糸の近代化産業遺産、さらにツツジ、ウナギも加えて、あなたも「製糸のまち岡谷」を楽しんでみませんか?
(ミッチー)